読書の時間〜『スロウハイツの神様』/辻村深月〜

突然なんだ、という感じだけれど、私は今、読書にハマっている。

ハマっているというか、ルーティーンになっている。

 

自粛期間にある人のnoteを読んで、読書の楽しさを思い出し、家にある本を読み漁っているうちにすっかり“読書熱”が再燃してしまった。

 

読書の感想はnoteに書き綴ってきたのだけれど、ここでも少しお話したいと思う。

 

まずは私の読書に彩りを添えてくれた、辻村深月さんの作品から。

私が読んだ初めての辻村深月作品は『家族シアター』。その次に『朝が来る』なので、辻村作品を読む順番としては正しいといえないと思う。

『朝が来る』は実写映画化も決定している、社会問題にも食い込んだ作品。テーマが少し重たいだけあって、ページをめくる度に切ない気持ちになった。

ただ、重たい作品は嫌いではないため、文章の読みやすさに惹かれて違う作品も読んでみよう、と思い立った。

私は本を選ぶとき、人のレビューを参考にする。本が好きでも、構わず好きな本をいくらでも購入できるわけではないので、出会う本との時間はできる限り楽しく過ごしたい。途中で読むことをあきらめてしまうようなことはしたくない。

図書館や、ブックカフェが開いている期間だったらそんな本との出会いもまた味ではあるけれど、自粛中の今、やっぱり読む本はおもしろいものであってほしい。そして今の気分は長編だ。できるだけ長く、架空の世界に入り浸っていたい気分だった。

そんなこんなで手にとったのが『スロウハイツの神様』。上巻・下巻からなる長編作品だ。

例にもれずレビューを見たけど、絶賛する方々が多い一方で「上巻はほぼ登場人物の説明で退屈」「上巻であきらめた」という声も少なからず見た。

でもいざ下巻まで読みすすめてみると、その上巻の登場人物の説明が、これでもかというくらい活きてくる。

脚本家、作家、漫画家などさまざまなクリエイターとクリエイターの卵たちが共同生活を送るアパート『スロウハイツ』。オーナーである赤羽環を中心に、ときにはぶつかり合いながら、お互いに影響を与え合い、刺激的な毎日を過ごす6人が暮らしていた。
人気小説家チヨダ・コーキの小説で人が死んでから、10年。かつて書いた小説で人が死んだ責任を糾弾されていたコーキも、再び小説を生み出すようになった。ある日、空き部屋だった201号室に、新たな住人がやってくることで、物語は大きく展開する。

上巻は、たしかにどなたかのレビュー通り、『スロウハイツ』のメンバーの人物紹介のようなものが書かれている。ただ、この人物紹介の中で起こる出来事がそのまま下巻に活きてくるので、少し退屈だと思っても上巻は読みすすめてほしい。上巻はスローなペースで、なんとなく登場人物の日記を読むような感覚で読むと楽しいはず。コーヒーを飲みながらゆっくり読んだり、雨の日にゆっくり読みすすめたりするのもおすすめ。一気に読める小説だけがおもしろい小説ではないと思う。

そして視点がころころ変わるので、この人はこういう性格、というのが物語を通してよくわかる。『スロウハイツ』で大好きなところは、登場人物誰一人、影の薄い人がいないこと。全員の性格や容姿までも文章からたやすく想像できる。

ネタバレになってしまうので、あまりたくさんのことは語れないけど、私が何よりも響いたのはチヨダ・コーキと、赤羽環の関係性。正直、上巻では環にあまり良い印象も持たないし、感情移入もできなかったんだけど、この二人の関係性が見えてから、私は一気に環に感情移入できた。

青春群像劇、と言われる小説でもあるみたいだけど、"憧れの人""追いつきたい人"がいる人には、これでもか!!というくらい響く小説だと思う。

人生のあらゆる大きな選択で道を選択するとき、私にはいつも憧れの人の存在が大きく影響していた。下巻での環の言葉たちは、とても胸に響くものがあって、ずっと涙が出そうな感覚で読んでいた。

どうか上巻だけで環を評価しないでほしい。(上巻では私もなんだこの子と思ったけど笑)下巻でどんどん環の魅力やいじらしさが加速する。

そして誰よりも好きになったのはチヨダ・コーキ。登場人物全員がコーキのことを好きなように、すべてを読み終えたとき、私もコーキのことが大好きになった。そんなコーキが書いたとされる『V.T.R』も刊行されているらしい。絶対に読みたい。けど、あまりレビューを見かけないので、読んだことのある方は教えてください。

学生はもちろん、大人になってしばらく経った人も、何か大切なことを思い出したり、こんな時間があったなぁと懐かしんだり、タイムスリップできるような優しい小説。時間が経ったら再読したい。